こんにちは、いっちーです!
精神科や心療内科って、どうやって薬を減らせばいいんでしょう?
「薬を飲み始めたらやめられないんじゃないの?」
「急にやめたら離脱の症状が出るかも…。」
そんな不安もあって、精神科の薬ってなかなか止められない人もいると思います。
そこで、今日は「精神科の薬の減らしかた」についてシェアさせてもらいたいと思います。
それではよろしくおねがいします!
【まず大前提として…!】
精神科の薬をコントロールする上で、まずは2つの鉄則についてシェアしたいと思います。
それは、
薬はじっくり時間をかけて減らすべし!
減らすときには主治医と共同作業で減らすべし!
この2つになります。
さて、精神科の薬はどうしてすぐに減らしてはいけないんでしょう?
「風邪薬だって風邪が治れば飲まなくなるし、良くなったらやめていいんじゃないの?」
そう感じる人もいると思います。
ですが、精神科の薬は中止をするのがとても難しい面があります。
例えば、うつ病という病気でも、治ったと思ってたらまたすぐに再発してしまう、なんてことは聞いたことがあるかと思います。
さらに、精神科の薬は急にやめることで、離脱による不安やイライラする気持ちが生じる離脱症状が出てくるだけでなく、ときに重大な有害事象が生じる可能性もあるのです。
ちょっと怖い言い方になっちゃったかもしれませんね、すいません…汗
ですが、精神科で使用される薬はそれだけコントロールが難しく、精神科の先生であっても中止する判断が難しかったりするのです。
だからこそ、「精神科の薬は減らしていくのが難しい」という前提を、まずはご理解ください
【そもそも、薬なんて減らす必要があるの?】
「せっかく病気が安定しているから無理に薬を減らしたくない」
そう感じる人は、もちろん主治医の先生と相談の上で、現在のお薬を続けていただいてもかまいません。
精神疾患は病気の種類によって、健常な人に比べ早期死亡リスクが高くなる、という報告もあるくらい(1)ですので、治療を続けることは非常に大切なことです。
だから現状でストレスを感じていないのであれば、無理をしてまで内服薬を減らす必要はない、という場合もあります。
ですが一方で、何年も同じ薬が続いていたり、薬を減らしてみようとしても、うまくいかなかった人もいるのではないでしょうか?
病気の治療のために薬は必要になりますが、それでも「多すぎるんじゃないだろうか…?」と心配になる気持ちもわかります。
そこで、ここでは薬を減らすための具体的なプロセスについてシェアすることで、「間違った減薬によって病気の悪化を防ぐ」ことを目標にしたいと思います。
精神疾患の治療を長年続けているとどうしても処方薬が増えてしまう場合があるので、一度あなたの減薬のためのプロセスについて考えてみるだけでも少しは気持ちがラクになるかもしれません。
【でも、主治医の先生がぜんぜん薬を減らしてくれないんだけど…?】
さて、ここで疑問に感じる人もいると思います。
「うちの先生、薬を減らそうとか全然言わないんだけど〜」
そう感じる人もいると思います。
確かに、病状が安定していて、生活がコントロールできている人では、無理をしてまで薬を減量する必要はないかもしれません。
ですが、睡眠薬や抗不安薬などでは、種類によって長期の使用により耐性や依存が形成されたり、自動車事故のリスクの増加や、高齢者では転倒と大腿骨頸部骨折のリスクがあるとも報告されています。(2)(3)
だから精神疾患の治療においては、使用される処方薬の量は病状に合わせてなるべく少なめが望ましいと考えられます。
とはいえ、不必要な薬は少なめにできれば良い、というのは誰しもが思うことですが、精神科医としては「薬を減らすのは難しいなぁ…」と感じてしまう面もあります。
なぜなら、前述したように薬を減らすことによって、すぐに再発してしまう病気というものもあるからです。
とくに再発しやすい統合失調症や双極性障害などでは、医師が「そろそろ薬を減らしてみようかな〜」と患者様に勧めたせいで、減薬によって再発し、患者様との信頼関係にヒビが入ってしまう可能性もあるのです。
だから、精神科の先生にとっても、
「この人は薬を長く飲んでるから、薬を減らしたいんだけど怖くてできないなぁ〜」
と感じてしまったりするのです。
【じゃあ、どうやったら薬を減らせるの?】
では、どうすれば薬を減らしていけるのでしょうか?
ここで精神科の治療における大前提として、
治療方針は医者と患者様の両方の意向が一致している
必要があるということをシェアします。
例えば、治療期間が長くかかる疾患なのに、病気の症状が治まってまだ2日目にもかかわらず「もう治った!この薬は自分に必要がないと思うから減らしたい!」と言われても、医師としては困ると思います。
逆に、不眠症として受診して不眠は解消されたのに、主治医の先生からもなにも言われないまま、ずっと関係なさそうな薬ばかりを処方されていても、患者様も困るでしょう
このように、精神科で処方される薬をできるだけ安全に減らしていくためには、主治医の先生と患者様でいっしょに減らしていく、という治療のための意向の一致が重要になってくるのです。
では、どうすればそんな減薬の意向は一致するのでしょうか?
まず大切になるのは、薬を減らしたい気持ちはあると主治医の先生にお伝えすることになります。
なにごとも目標ありきなので、”いずれは”減らして行きたい、という意向はできれば伝えておきましょう。
ここで「すぐに」ではなく、「いずれ」減らして行きたいんだ、と伝えることができれば、無理をして減らそうとしているのではなく長期的な目標として、きちんと治療方針をとらえてくれているんだと医師も安心してくれます。
他にも、減薬を検討するためのある種の基準として、
・内服治療を忘れずにきちんと行えていること、
・病気の状態が長期間安定していること、
・生活が十分に安定していること
・薬を使用することにより不利益が生じていること、
などを満たしていると、精神科医としても薬を減らしてみたい、という気持ちが出てくるものです。
やはり誰しも早く病気は治したいものですから、「良くなったと思うから薬は減らしてみたい」と思う気持ちは最もなのですが、その焦る気持ちが出てくると、精神科医は「まだ病気が良くなっていないんじゃないか?」と不安になってしまいます。
だからこそ、「ゆっくり時間をかけていいから、いずれ薬は減らして行きたい」という意思表示をすることが、遠回りに聞こえるかもしれませんが、じつは減薬のためのスタートラインになったりするのです。
【それでも、ぜんぜん薬を減らしてくれないときは?】
「同じ薬をもう10年飲んでいるのに全然良くならない」
「1回に飲む薬が10錠以上もある…」
残念ながら、精神科ではそんな処方が行われることがあります。
「薬をたくさん出せばいいと思ってるなんて!」と憤る人もいるでしょう。
ですが、たくさんの薬が必要なのには理由があるのかもしれません。
病気によっては、薬の量が少ないと、どうやっても治療できない場合もあるのです。
とくに病気が長期化してしまっている人では、薬を減らすのにもそれだけリスクがある、とも考えられます。
とはいえ、もう何十年も通っているのに良くならない、ほんとうにこのままの治療で良いのか不安だ、と感じてしまうこともあるかもしれません。
「だったらすぐに医者を変えよう!」「転院しよう!」
となるのも少々早合点で、転院のせいで環境が変わってしまい、自分ではわからないうちに病気が進行して、長い目で見ると治療の改善から遠ざかってしまうこともあります。
そこで大切なのは、なぜこの薬が必要なのか理解すること、になります。
病気について知ること、理解して治療を行うことは治療効果を上げるためにも、とても大切です。
よく効果も知らない、効果も実感できないような薬をただ飲んでいるだけではどうしても嫌な気分になるものです。
薬が減らせず、ずっと飲み続けているのであれば「どうしてこの薬が必要なのか?」「なぜ減らせないのか?」と治療を行っている先生に聞いてみると良いでしょう。
「え、先生にそんな説明してくれる感じじゃないんだけど…」
と思っていても、聞いてみると案外と「あぁ、これはね〜」と納得できる理由を教えてくれることがあります。
医師としても、患者様の病気が良くなってくれることは望ましいので、納得して治療したいと話したら先生も説明してくれることもあると思います。
また、先生方はいつも忙しくされているので、なかなか聞きにくいと感じてしまうこともあると思います。
そんなときには、いつもかかりつけにしている調剤薬局の薬剤師さんにも相談してみましょう。
治療の内容や、方針については「先生に聞いてください」と言われてしまうかもしれませんが、薬についての相談会や、薬局によってはきちんと細かく説明してくれることもあります。
それらを踏まえて、薬を減らしていくための最善策として、自分の病気や飲んでいる薬についてきちんと確認し、納得のいく治療を自分でも選択していくことが、大切かと思います。
*注意点:自分が飲んでいる薬について調べると、副作用や有害事象が気になりすぎてしまい、薬を飲むことが怖くなったり、治療において不利益が生じてしまう人もいます。そういった心配がある場合は、主治医の先生と相談した上で、あえて詳しく調べずに、信頼できる先生に減薬についてお任せしたほうが良い場合もあります。
それでも納得ができない場合、きちんと減薬の希望や有害事象について説明しても、先生が取り合ってくれずうまく治療ができないと感じた場合には、転院する前に一度「セカンドオピニオン」を受けてみることをお勧めします。
紹介状が必要だったり予約が取りにくそうと感じるかもしれませんが、市町村の保健所や福祉課などに相談すると、セカンドオピニオンを受けやすい医院やクリニックを相談してくれる場合もあります。
また、セカンドオピニオンのための外来を開設している医療機関もありますので、それらを含めて検討してみると良いかもしれません。
【具体的に薬はどうやって減らしていくの?】
ここまで、主治医の先生や支援者となる方とも相談の上で、「そろそろ薬を減らしてみても良いかもしれない」と認識が一致したとします。
そして、これから薬を減らしていくことになりますが、精神科では薬の減らしかたに3つのパターンがあります。
① 漸減法(ぜんげんほう)
薬の量を少しづつ減らしていくことです。
例えば睡眠薬を10mg服用していたとしたら、急にやめるのではなく7.5mg、5mg、2.5mgと、ゆっくりと減量して生活にしばらく慣らしながら少なくしていく方法です。
一般的な減薬として選択される方法です。
② 隔日法(かくじつほう)
薬を飲む頻度を少しづつ長くしていく方法です。
毎日飲まなければならなかったものを、最初は1日おきに服用し、一定期間経ったら2日おきに伸ばし、徐々に間隔をあけていく方法となります。
③ 置換法(ちかんほう)
薬をべつのものに変更していく方法です。
薬によっては、減らしやすい薬、減らしにくい薬が存在します。そのために、治療効果の似た薬に変更してから徐々に減量していくという方法です。
薬がなくなってしまうことに恐怖や不安を感じている患者様に使用されることがあります。
この①〜③のうち、いずれかを選択して薬を減らしていくことになると思います。
ここで改めて精神科の薬はゆっくり減らしていくべし!というルールについて、シェアさせてください。
「おいおい、くどいよいっち〜」
と思うかもしれません。
でも、それだけ大切なんです〜涙
主治医の先生としても、「せっかくこれだけ病状が安定しているのに、減薬のせいで再発するのはもったいない!」と不安を感じるかもしれません。
だからこそ、「病状に合わせて、ゆっくり減らしていくことはわかっているので焦っていません」と減薬についてのノウハウをちゃんと知っているんだぞ、と先生にアピールすることで、先生の不安も少しは減らせるかもしれません。
そんなシーソーようなバランスゲームをすることで、徐々に互いの減薬への意識は整っていくのです。
え、減薬はいいけど、どのくらい時間がかかるのか?ですって?
そればかりは病気によるのでなんとも言えません。
人によっては1年から数年かけて薬を減らしていく人もいます。
ですが、ゆっくり減らした方がうまくいくことが多い。
遠回りに見えて近道な方法なんだと、思ってくださいな。
【薬は必ず減らさなければいけないの?】
さて、ここまで精神科の薬を減らすことについてお話ししてきました。
治療方針を変更することは難しいけれど、薬を飲む面倒くささや、副作用のことを考えると、薬を減らすことにも一考の価値はあるのかなと思います。
精神科の薬は必ず減らす必要があるわけではありません。
病気の状態によってはどうしても処方の量が増えてしまったり、減らすとすぐに悪化してしまうので、なかなか薬を減らせないという人もいると思います。
ですが、同じ薬をずっと飲んでいて「ちょっと減らしてみたいな〜」と感じている人は、主治医の先生に一度は相談してみても良いかと思います。
精神科で使われる薬の減薬は、治療と同じように医者と患者様の共同作業、なんだということを最後に強調して、終わりたいと思います。
いっちーでした。
(1)Thornicroft, G. (2011). Physical health disparities and mental illness: The scandal of premature mortality. British Journal of Psychiatry, 199(6), 441-442. doi:10.1192/bjp.bp.111.092718
(2)The effects of benzodiazepines on cognition. J Clin Psychiatry. 2005;66(suppl 2):9-13.https://www.psychiatrist.com/pcc/anxiety/panic-disorder/effects-benzodiazepines-cognition/
(3)K.L.L. Movig, M.P.M. Mathijssen, P.H.A. Nagel, T. van Egmond, J.J. de Gier, H.G.M. Leufkens, A.C.G. Egberts, Psychoactive substance use and the risk of motor vehicle accidents, Accident Analysis & Prevention, Volume 36, Issue 4, 2004, Pages 631-636, ISSN 0001-4575, https://doi.org/10.1016/S0001-4575(03)00084-8.