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なんで心の病気なのに薬が必要なの?精神科で使われる薬について

こんにちは、いっちーです!

今日は、「精神科で使われる薬について」をシェアさせてもらいたいと思います。

「精神科のおくすり」と聞くと、何となく怖い感じがしませんか?

私も精神科医になる前は、「何となく精神科の薬を飲むのは怖い」という正体不明の怖さを感じていました。

ですが、精神科医として臨床に携わるにつれて「正しく使用すればとても有益な薬だ」ということがよくわかるようになり、そんな怖さは徐々に和らいでいきました。

人間という動物は、よく知らないこと、正体不明のものに対しては「漠然とした恐怖感」を感じるものですので、精神科の薬についてよく知らない、という気持ちがその恐怖心を作り出しているのです。

ですが、「薬の知識」について知ることで、薬を使用するときの怖さを減らすことができることができます。

さらには、正しい「薬の知識」を得ることで、あなたの周りで精神科の薬を必要としている人を、安心させるための技術にもなるのです。

今日はそんな、「薬の知識」について、今日はあなたにシェアしたいと思います。

それではよろしくお願いします。

目次

なんで心の病気なのに薬が必要なの?

なんで心の病気なのにくすりが必要なの?

あなたはうつ病や摂食障害なんかは、「心の病気」と捉えていませんか?

「何となく気持ちが落ち込む日が続いてる」

「ご飯が食べたいのに食べられない」

「仕事に行きたいのに行けない」

そんな症状が続いたとき、どうしても「心の問題」や「気持ちの問題」と捉えられてしまうことが多いです。

ですが、精神疾患と診断されるものの多くが心ではなく「脳の問題」が生じていると近年明らかとなっています。

例えば、うつ病でも人によっては脳の形そのものが変化していたり、てんかんやパニック障害など明らかに脳の構造や機能のトラブルによって生じる疾患もあれば、脳出血や心筋梗塞、はては体内の内分泌の異常や使用している薬によって生じる精神疾患など、精神疾患の多くでは「脳」という臓器に何らかのトラブルが生じているのです。

だから表題でもある「どうして心の問題なのに薬を使うの?」という質問に対する答えは、「脳という内蔵の病気なので、胃潰瘍や高血圧といった他の内臓の病気と同じように、薬剤治療が必要な場合がある」という回答になるのです。

どういう原理なの?

どういう原理なの?

さて、精神科で使われる薬が「脳のトラブルを解消させる薬」ということはお伝えしました。

ですが、それでも精神科の薬について不安な気持ちはあります。

「考え方が変わっちゃうんじゃないか?」とか「心がへんになるんじゃないか」とか、色々と考えてしまうと思います。

そこで、ここでは睡眠薬を利用して、病気のメカニズムと、その治療薬について簡単に説明しようと思います。

睡眠薬とは文字通り、眠れない人のために処方される、眠れるようになるためのお薬です。

その原理は薬によってそれぞれですが、特徴として「脳の興奮を抑える」という効果があります。

緊張したり、興奮したり、不安だったりイライラしたりと、いろんなことを考えていると、眠れなくなることってありますよね?

「明日は遠足だけど、雨が降ったらどうしよう…」

とか、

「将来に対して不安だ!」

とか、

考え出したら止まらなくって、ついつい夜が遅くなっちゃう、そんな経験は誰にでもあります。

睡眠薬はそんな興奮する脳を安心させ、リラックスさせるための「神経伝達物質」というものを、脳に分泌させるように「安心していいんだよ」という情報を送ります。

脳に対して、「ちょっと働きすぎだから、休むように指令を出してくださいな」という情報を送るのです。

それによって、脳がリラックスできるような指令を「神経伝達物質」という手紙に載せて、脳全体に行き渡らせるようにして脳をリラックスモードに変えてくれるのです。

このように、「神経伝達物質」という物質の量を調節するのが精神科で出される薬の主な原理です。

あなたが走っているときに”運動する”という情報を脳に届けることで、「もっと元気を出して!」と脳が全身に動くように指令を出したり、

近くで”カミナリが鳴った”という情報を得たときに脳が「怖いことが起こってる!」と危険を知らせるよう指令を心臓に送ってドキドキさせるのと同じで、

脳が指令を出すための情報を伝えるのが、精神科で使われる薬の主な原理です。

これから紹介する抗精神病薬や抗うつ薬などでも、だいたい同じような「情報を伝える」という原理で動いていると考えてもらって良いかと思います。

どんな薬があるの?

どんな精神科の薬があるの?

精神科では色々な薬を使って治療しますが、主に下記のような「7つの薬」を使って治療します。

・抗精神病薬 強力な精神安定剤、幻聴や妄想の治療にも使われる。

・抗不安薬 若干マイルドな精神安定剤、不安を落ち着かせてくれる。

・抗うつ薬 抑うつ気分や不安を減らしてくれる薬。

・気分安定薬 躁うつに見られる気持ちの波を整える薬。

・抗てんかん薬 てんかんの治療に使われる薬。

・睡眠薬 眠らせる薬。

・発達障害の薬 発達障害によるストレスを減らす薬。

大体こんな”イメージ”を持っていただければ大丈夫です。

「え、たったこれだけ?」

と思うかもしれませんが、大体こんな感じです。

こんな少数精鋭たちによって、世界の精神科治療は支えられているのです。

「じゃあ簡単だね!」と思うなかれ、薬の種類はこれだけかもしれませんが、細分化すればするほど、細か〜い違いがあったりして、その違いで病気の治療加減がぜんぜん違ったりするのです。

また、抗てんかん薬と気分安定薬で同じ薬が使われていたり(名前が一緒とかじゃなく成分まで、まったく同じ)。

統合失調症の薬だった抗精神病薬が、現在では治りにくいうつ病や躁うつ病(双極性障害)の治療にも使われていたり。

抗うつ薬が睡眠薬がわりに使われていたりと、

実際の臨床だと名前や分類に関わらず玄人っぽい使われ方をして治療されます。

それも日本だけじゃなく、むしろ欧米や海外の方がこのような微妙な使い分けがされていたりするのです。

で、結局のところ効果はあるの?

精神科や心療内科の薬は効果があるのか

さて、ここまで読んできて、あなたも「でも薬飲んでも意味あるの?」と感じたのではないでしょうか?

「睡眠薬を飲んでても眠れるだけだし…」

「抗うつ薬を飲んでいるときだけ、うつ病が治ってもなぁ〜」

そんなふうに考えてしまうかもしれません。

確かに睡眠薬には「眠らせる」という効果しかありません。

ですが、これは睡眠薬が内科で言うところの「対症療法」として使用されることが多いからです。

例えば、あなたが高熱が出て頭痛がひどいとき、痛み止めや熱冷ましとして”解熱剤”や”痛み止め”のお薬をもらうことはあるでしょう?

ですがこれらの薬は根本的な治療薬とは言えません。

痛みを止めてもカラダの中には細菌やウイルスなどのバイキンがいますし、それらが悪さをしている限りは「根本的な治療」にはならないのです。

では、どうすれば良いのでしょうか?

そんなとき、私たち医師はカラダの中でバイキンを退治するために「抗菌薬」という薬を使います。

文字通り、カラダの中のバイキンをやっつけるような、根治的な治療薬を使って治療しようとするのです。

では、精神疾患ではどうでしょうか?

前述したもののうちでは、抗精神病薬や抗うつ薬など根治的な治療を行えるものもあります。これらは長期的な服用によっても効果が明らかになっており、治療効果が評価される研究も数多く存在します。(1)(2)

では、それら以外の薬には効果はないのでしょうか?

いえいえ、私たち医師にはもうひとつ、重要な治療のための手段が残っています。

それこそが「ホメオスタシス」です。

「おいおい、なんかいきなり難しい言葉が出てきたぞ!」

なんて、心配する必要はありません。

かなり大雑把になりますが、ホメオスタシスとは、環境が変化しても、体内の状態(体温・血液量・血液成分など)を一定に維持できる能力のことを言います。

軽いケガをしても勝手に体が治ってくれるように、

暑い場所にいると体が勝手に汗をかいて体温を下げてくれるように、

私たちの体は、まわりの環境の変化やストレスに合わせるように働く力が存在するのです。

そんな自然にはたらく力によって、精神疾患によっては改善されることが期待できるのです。

「なんだよ、自然に治るってそんなの医療なのかよいっち〜💢」

と思われるかもしれませんが、何も放っておいて治る、というわけではありません。

先ほどの「対症療法」のお話をしましたが、まったく効果がないのならどうして痛みを取ったり、熱を下げたりするのでしょうか?

それは、「苦しい」「つらい」といった状態を抱えたままだと、この「ホメオスタシス」の効果を妨げてしまう恐れがあるからです。

ケガが痛すぎて食欲がなくなり、ご飯を食べれないと栄養が不足してケガの治りは悪くなります。

働きづめで水分が不足すると、汗をかくための水分が足りなくてうまく体温が下げられません。

「ホメオスタシス」がきちんと機能するためには、一定のエネルギーや水分、体力などの備蓄が必要となるのです。

話を精神科に戻しますと、睡眠薬や抗不安薬などは確かに「対症療法」としての効果しかもっていないかもしれません。

ですが、これらをうまく使うことで精神的なストレスを減らし、食事や運動などが行えたり、仕事や人とのコミュニケーションを行うことができたりします。

さらに、あらゆる精神疾患の発症リスクとなる「ストレス」の軽減にも繋がります。

この「ストレス」と言うやつは、内科などの身体科で言うならば先ほどの「発熱」や「痛み」のようなもので、ホメオスタシスが機能するうえでの妨げにもなるのです。

このように、精神科の薬でも「対症療法」や「根治的な治療」として使用されるものがあり、場合によっては「ホメオスタシス」を保つような支援を行うことで、精神疾患の治療に効果を発揮できているのです。

残念ながら、精神疾患の中には、現代の薬では抗菌薬のようにサッと治せないものもあります。

ですが、さまざまな治療効果が期待できる研究結果が、世界中でいまも続々と報告されています。

私個人の感想ですが、おそらくこれから10年とまたずに、精神科治療は大きく変化すると思います。

それほど、人間の”脳”の探求は、飛躍的な向上を見せているのです。

そんな変化を待つまでの苦痛を、ほんの少しでも和らげることができるなら、精神科の薬を使うことにも意味はあるのではないかと思います。

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いっちーでした。

参照:

1.Comparative efficacy and acceptability of 21 antidepressant drugs for the acute treatment of adults with major depressive disorder: a systematic review and network meta-analysis
Cipriani, Andrea et al.
The Lancet, Volume 391, Issue 10128, 1357 – 1366
2.Comparative efficacy and tolerability of 32 oral antipsychotics for the acute treatment of adults with multi-episode schizophrenia: a systematic review and network meta-analysis
Huhn, Maximilian et al.
The Lancet, Volume 394, Issue 10202, 939 – 951

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この記事を書いた人

精神保健指定医
日本精神神経学会 専門医

著書『鋼のメンタルを手に入れる ゴリラ式メタ認知トレーニング』
https://www.amazon.co.jp/dp/4827212201/

twitterでも硬軟織り交ぜた情報を発信しています。
https://twitter.com/ichiipsy

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